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※ヒューマンドキュメントストーリー【17】

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※A Certain Human Story  『 That time Those days 』

Part 7、 《 ・・・・・・・ ・・・ 》  ・・辿れへぬ足跡・  (1) 


結婚二年目になる
又、暑い夏がきた
弥生の気分転換も含め
会社の連れたちと
7月末の連休に
岐阜の付知峡キャンプ場に行くことにした
弥生はインドアーにしろ
アウトドアーにしろ
集団での遊びを、まったく知らないで育ってきていた
御岳山系からの雪解け水が
清流付知川となり
渓谷美を織りなす
山紫水明の別天地としても付知峡は有名なところだ
弟の光良も誘い
朝早くから
合流地点の工場の駐車場で待ち合わせ
車3台の軽四ばかりで、付知峡へと向かった
R19号線を通り
小牧~恵那~中津川~R257号を抜け
付知峡口から、付知峡キャンプ場に入った
バーベキュをやるため
途中で肉やハム、ソーセージ野菜類を調達した
金網や串、調理用具など
役割分担により、それぞれのメンバーが用意してきている
付知川の水は透きとおってきれいだが
氷のように冷たい
岩々と川がおりなす渓流に、はしゃぎ合って戯れた
山の中のバーベキューは気分も最高だ
川のせせらぎが奏でるメロディを耳に、新鮮な空気を吸い食も弾んだ
自然との戯れと、観察以外にすることはない
キャンプ場だが、今回は日帰りのつもりだ
夕方に付知峡を出発し、夜には家に着いた
弥生は勿論
久しぶりに一緒に過ごした
弟の光良も楽しそうで
付知峡キャンプ場でのよい思い出づくりができた

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暑い夏も終わり、また秋が来た
義母が家を出てから 5ヶ月が過ぎる
そんなある日、義父が根負けしたのか
義母に戻ってきてくれと頼み、許したらしい
数日後、約、半年振りに義母が家に戻ってきた
やはり夫婦は 一緒がいい
収まるべきところに 収まり
何もなかったかのように
平穏な日々がつづき、落ち着いた元の家になった

二回目の秋祭りがきた
近所に設置されている旗立ての場所に
隣組の役員皆で13mほどの高さになる祭りのぼり旗を立てた
長い旗が、風に吹かれてパタパタと音をたて靡びいた

子供のころの学校群は
神社とお寺のある字地域と字地域とが、ひと括くりにされ形成されていた
勝也は12からなる字の
天王、道場山、鶴ゲ崎、西松江、東松江、久沓、田尻、浜尾、千福、東山、西山、西端の字地域からなる学校で、小学校と中学校は地つづきで、道路を隔て隣接して建てられていた
校門が変わるだけで、距離の変化はさほどなく
家から800m位の所に位置していた
字西端地域は二つの市の狭間にあたり、市への地域編入によって中学から追加認定されたところで、距離もあり、特別に自転車通学が認められていた
現在、住むところは
荒子、鷲塚、神有、流作など 4つの字地域から成り立っている
小学校は800m位の所にあるが、中学校は1.5kmのところになる
どっちの学校群の占める広さも
面積はさほど大きく変わらないが、人口密度の差で住宅が多くあり人が沢山住んでいたかいないかの違いだ
何処の地域でも神社やお寺の数や位置で
その地域の、歩みや歴史が殆ど読み取れ汲み取れる

・・秋祭りの日は丁度、日曜日だ
会社の班の部下
豊橋の白井君、岡崎の山本哲造くんなど数人を招待した
山本くんは若さに似合わず
着物袴を着て、詩吟や剣舞をやっている
最寄り駅から
事前に話しておいた通り、駅からバスに乗ってきた
義母が店を半分閉めた状態にし
前日から材料を仕込み
煮魚や寿しなど、沢山の料理をつくり振舞ってくれた
皆な20代で若い
ビールや酒などアルコールが飛ぶように空いた
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嬉しいことは重なってやってくる
弥生が妊娠していることがわかった
妊娠3ヶ月だと、医者に言われたと言う
こんどこそ大事に育てようと、気持ちも新たに決心した
義父は喜んだが、前の失敗もあってか
慎重で、あまり当てにはしていない様子だった
今までの人生で
何度も期待をし、裏切られてきた苦い体験からだろう
生きてるうちに、男の孫の顔がみたい
それが唯一の夢で、口癖だ
妊娠した祝いに
洋服をオーダー仕立で注文し
プレゼントした
薄紫と、黒のストライブの入った柄の服だ
お返しに、ダークグリーンの和服を注文しプレゼントしてくれた
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勤め先でも、大幅なライン移動の案件が
着々と具現化され進められていた
地元の北川新の工場が、建て替えられ新たに二階建の工場になる
そこに豊新工場の、カバー組み付けラインが移管されることになった
ビジョン経営に基づく
工場単位の特徴を活かす
商品別一貫生産の統一化を目指しての動きの一つだ
カバー製品は、勝也が長年面倒をみてきた十八番の製品だ
現在の担当職場の受け持ち製品ではなかったが、同じ課内の仕事だ
上司に言えば、どうにでも班間の職制移動はできた
年が明けたら二月から
管理職の課長層以上の
職制変更と人事異動が発表される
準じて、一ヶ月遅れの三月から課内の組織変更が行われる
課内での移動は、既に内定されていた
来年の春からは、地元に戻ってこられる
今では社名も工場名も変わってしまったが
場所も人も同じで、始めて就職したときに勤めた会社であり工場だった
実現すれば、9年ぶりだ・・

勤め先の幡豆一色から通っている、用度品倉庫係の加藤くんが
ある日、妹の話をしだした
加藤君は片足が少々ビッコじみた歩き方をする、1才上の先輩だ
妹は新川工場で購買課に属し、事務の仕事をしていた
そういえば、妹も 20才になる
九州の宮崎から、家族で働きに来ている光宗という人の長男が
妹の良恵が好きで、交際したいらしい
加藤君の一色高校定時制時代の後輩らしく
苦労人で、とてもいい奴だから認めて応援してやって欲しいという
途中入職で入り、同じ工場の工務課で発送業務をやってるという
工務と聞いて、懐かしい人々の顔がよぎった
あの笑みちゃんを取り合った岡部や清水さん、梅田くん、石川晋也さん、藤井さん、浅岡さん計画進行係の河合さんなどの顔が咄嗟に浮かんだ
妹に関する、予期せぬ話しに驚いた
見たことも会ったこともない人間だ
が、妹には
地元民で身近な氏素性のはっきりした人間と一緒になって欲しかった
「なにを とろいようなことを言っとるだ!」
「あかん あかん  そんな奴は絶対あかん!」
一方的に毛嫌いし、話しを突っぱねた
が、所詮男女の恋愛は、妹とはいえ束縛も出来ず自由だ
ニュアンスから察すると、どうやら付き合い始めているらしい
妹に何も話さず、そのまま成り行きをみた
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同じころ、弟の光良の噂話も耳にした
光良は、高校も仕事もやめてしまった
入社半年ぐらい経ったとき
谷刈工場に出張で行き
配属先と働いている様子をみた
自動旋盤を数台受け持ち切削加工ラインで元気に働いていた
その職場の所属長の石崎さんは
地元の浜尾の人で多少は知っていた
小柄でおとなしそうな人だが、職場を束ねる工長だ
新川工場出身の人だが
企業合併により人事交流の一環から
谷刈工場に配属変更された職制の一人だ
直接、石崎工長を訪ね
「俺の弟だからよろしく頼むね」と、お願いした
結局は二年になるかならないかで、何の相談もなくやめてしまっていた
職場の高浜久司くんのことを、通称キュウちゃんと呼んでいた
キュウちゃんは愛くるしい顔に似合わず、高校時代は番長を張っていた
が、勝也を親戚の兄ちゃんかのように親っていた
結婚前には、歯医者の帰りに
勝也の布団に入り込み
痛みに耐えられず数時間寝て行ったりした
いつもニコニコしていて、親しげで誰からも人気のある人柄だ
今でもプロ並みのマージャンの腕を持っていて、仕事も出来るが毎月マージャンで給料以上の銭を稼いでいた
色んな雀荘に出入りし、ヤクザ絡みの人間も良く知っていた
キュウちゃんが、言った
弟の光良が
北川新の駅界隈の喫茶店で
山田という肥えた体格のいいヤクザと親しくし仲良くしているらしい
ヤクザの山田は、キュウちゃんがよく知っている人物だった
「弟がヤクザと付き合わんよう 注意して弟を見てなきゃやばいよ」
と、親切心で忠告してくれた
弟は大手の会社員という平凡な生活に飽き
嫌気がさしたのか
挫折し、チンピラになり果て、愚れてしまっているようだ
つい数年前、勝也が味わい通った道と変わりない
似たような道を歩むものだ
弟のこころが十分理解できた
家に寄ってみたが
バイクも処分され弟は家を出てしまった後で
アチコチ転々としてるらしく、居所を掴むことができなかった
家族の皆が、現実と戦い葛藤しながら、もがいて生きている
実家には、母と妹の二人が住んで居るだけだった

暮れになると、店に来るお客が増え集中する
仕事から帰った後や休日の日など
器用な勝也はシャンプーをしたり
ヘアーのブラッシングをかけたりして忙しい店を手伝った
お世辞もあるだろうが、人気は上場だった
わざわざ指名をされることもある
二回目の年の暮れが来て
いろいろあった慌ただしい波乱万丈の今年という年が過ぎ去ってゆく
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1970年〈昭和45年)・・
希望に満ちた年が明けた
去年と同じように、地元の二本木荒子神社に参拝に行った
弥生のお腹の赤ちゃんも、6ヶ月目を迎えた
予定日は、5月初旬だ
運良くかち合えば、子供の日の可能性もある
今回のお願いは、勿論、なんと言っても
〈五体満足な健康な子供の母体共々の無事出産〉
〈家庭円満、夫婦仲良く〉
〈工場移動の実現〉
〈実家の母や妹、弟のこと〉など
何よりも祈ったのは子供のことだ
何を犠牲にしようと、それに増すものはなかった
やはり二人の間の子供が欲しかった
正月中は、夜の開ける暗いうちから
髪のセットや晴れ着の着付けの予約客でいっぱいだ
三が日最後の午後には暇になった
熱田神宮にも弥生が作ってくれた着物姿の下駄を履いて行き
同じようなお願いをした

一月も終わろうとしていた月末の31日の土曜日
勤め先に昼近くになって自宅から電話がかかってきた
お腹の赤ちゃんも 7ヶ月目になっている
嫌な予感がした
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恐る恐る電話にでた
義父が死んだという
嫌な予感はやはり的中していた
急な訃報だ
それにしても・・
気がつかなかったが、風邪をこじらせていたようだ
義父が中々起きてこないので
義母が、離れの義父の寝て居る部屋を覗いた
呼んでも返事もなく
いつまで経っても起きてこなかったらしい
布団の中で、寝たような顔で死んでいたと言う
安らかな顔をしていたという
死亡時刻は、明け方に近い深夜だといった
意外な出来事に言葉も出なかった
享年72才
呆気ない終焉だ
人間ポンプと自負し
医者に、絶対いかないひとだった
なぜか、自分だけの力で治していた
何の前触れもなく
ある日突然、不意を付くようにやってくる
急いで早退し、車で家に帰った
毎日走りなれている道だが
頭の中が混乱し
どう帰ってきたのか、覚えもなかった
一時間ほどして家に着いた
北枕の位置で、棺が仏間に置かれていた
遺体は、死化粧を義母がほどこし
体洗いをして北枕で頭を北にして座敷に安置されている
改めて、うつつでなく現実のことだと思い知らされた
義父は、まるで安らかに眠っているかのような穏やかな顔をしていた
長年住み慣れた
自分の家の自分の部屋で
家族に何ひとつ迷惑もかけず
寝たままの状態で、遥かな旅立ち
早かれ遅かれいつか来る
これ以上の往生の仕方はないだろう
大往生だと、こころに言い聞かせ慰めた
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縁あって知り合ったのに
経った一年半の、短い縁だった
弥生が用意した数珠を握り、合掌した
その後、通夜に合わせ棺に納められた
東山の葬儀屋
貝田さんに、一切の葬儀の仕切りを任せた
葬儀屋の弟は勝也と同級生で、貝田さんは、その兄さんにあたる
勝也の地域での葬儀は、殆ど受け持っていた
着々と通夜の用意がされた
家で、通夜も告別式を行う
仏間を取り巻く
4つの部屋の、置かれている荷物を片付け整理し出した
襖を開け放つと8帖が二間と
6帖の部屋二間がつながり、28帖の大広間となる
廊下部分を足せば35帖にもなった
奥座敷の6帖の座敷だけ、お坊さん用の部屋に当て
他の部分を
上部に黒一色の横一線が入った
白黒の縦縞の鯨幕を張りめぐらし、通常の場と区切りをつけて覆った
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白と黒が、あの世とこの世を表わし
一番静かでものを考える地味な、人を偲ぶ色だから・・
喪主は
連れ添いの義母が勤めるものだと思い込んでいた
頼むからやってくれと
懇願され、喪主を務めることにした
通夜が終わり、告別式の日になった
ズーッと寒いが晴れ渡った日がつづいている
頭に白の三角頭巾を巻き
白装束の着物に白の袴と足袋を履き全身白一色で身をかためた
午前中に読経が始まった
位の高い僧侶が三人来て勤めてくれた
勿論、所有している寺の住職も階級の違いで前の方で勤めた
一般的な坊さんは白の着物の上に黒を着ている
位の高い坊さんは袈裟から衣装までが違った色や柄の扱いだ
延々と読経が流れ神妙な気持ちになった
何回にも区切られ行われた、二時間近くの読経の全てが終わった

庭にいる参列してくれた人々に
用意されたマイクを手にお礼の挨拶を述べた
いよいよ出棺のときが来た
通常出入りに使っている玄関とは違う
中庭につづく廊下づたいから棺を出した
地域が指定する火葬場に行った
非情な
火葬のスイッチは
義母が、念仏を唱えながら
嗚咽し
涙を浮かべ
祈るように歯を食いしばり ・・押した
とうとう、逝ってしまう
煙となって空に上がって
遠くに見えなくなって消えてゆく・・
魂は天に昇って 宇宙と融和する
骨は地にもどって 自然となって永遠の大地を支える
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呆気ない
突然
目の前から
ありがと ・・・も
さよなら ・・・も、言わせず

つい数ヶ月前まで
男としてのプライドか、僻みだったのか
年甲斐もない
夫婦喧嘩で
長年連れ添った妻を
狂ったように家から追い出し
前触れか予知でも感じたのか
あれほど怒ったことなのに
わざわざ妻を引き戻した

・・義父は
前妻の子供と前妻とを
合いついで病気で亡くした後
しばらく、一人身を通していた
周りの強い勧めで、再婚話をいくつも紹介されていた
田尻の渡船場から、舟で二kmほど渡った亀崎という向こう町
義母は
家の都合で、はじめ芸者として隣の半田の町で働いていた
長身で卵型と顔立ちもよく、話術と芸も達者で
有力なひいき筋がつく、売れっ子芸者だった
年頃になって、村の青年と恋に落ち
将来を誓う、いい名づけ同士となった
義母は、惜しまれながらもあっさりと芸者をやめた
結婚をまじかに控えたとき
いい名づけに、赤紙の召集令状が届いた
戦時中のさなか
紙切れ一枚の召集令状により送り出され、戦地に赴むいた
無事に戻ってきたら一緒になろうと、固い約束をしあっていた
芸者から身を引いた義母は、お国のためと
大府の軍需工場に、女工として男に混じり働きに出た
名古屋界隈の知多や西三河地域は
戦争のための
東海航空機、中島飛行機などがあって、軍需工場の拠点で
航空、船舶、トラックなど輸送、搬送品の生産拠点だった
全国から、この地域に沢山の人が動員されてきていた
この時の軍需産業が息づいて
後の日本を代表する
自動車生産地帯の一大拠点へと形相を変えていった
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・・義母が、仕事を終え帰ってきた
丁度、そのころ、義父が家を訪れた
仕事から帰ってきた、初々しい姿を見た
義父の、一目ぼれだった
いい名づけは、戦地に向かったまま音沙汰もなかった
奪うように、強引なやり方で結婚にこぎつけた
1943年(昭和18年)
大東亜戦争、第二次世界大戦と真っただなか
そのとき、義父45才、義母22才のときだった・・

薄々、気が付いていた
義父は真夏でも、長袖しか着なかった
ステテコ姿や半袖、半ズボン
下着姿を見せることがなかった
長袖に長ズボンしか身にまとわない
風呂も皆が入り終わった最後に
誰もいないとき、一人で入っていた
遺体は、義母が誰にも見せず一人で体洗いをし
すべての体の穴、口、鼻、耳、お尻などをしっかりと綿で詰めた
葬儀屋がするであろうことも、義母が全てを一人でした
義父の体には
全身に渡る見事な刺青が彫られている
背中全面は勿論のこと
両腕の先から、両足の足首までぎっしりと・・
誰にも見せることはなかった
子供にも
連れ添い以外には・・
だから
終生、医者にいかなかったのだろう
そんな義父の秘密も
勝也は、世間の内緒話で耳ニしていた・・
隠さなくてもいいのに・・
隠すようなことでもないのに・・
が、それさえも言えなかった
触れてはいけない部分だと思っていた
触れられたくないから
知られたくないから
ベールで覆っているのだから・・
義母も義父の胸のうちを充分察し、理解していたのだろう
家に戻ってから、まだ 3ヶ月も経たないできごとだった
虫が知らせるのだろうか
運命だとか、宿命なのか
縁と絆が、示し合わせたように
引き付け合い、呼び合った
最後には、看取るべき人が、しっかり看取り
看取られるべき人に、ちゃんと看取られて、消えて逝った
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若気のいたりだったのだろうか
若いころ、素人の村相撲の力士で相当強かった
と、風の噂で聞いいたことがある
政治に興味や関心が強く
毎年、年頭には名刺交換会に参加し
独自の視線と目線で新聞を発行し
市政や政治家に対し、鋭いメスを入れ批評と論評をしていた
親から貰い受けた
真っさらな大事なからだに
消せない付けてしまった刺青を
義父は誰にも秘密で
誰にも見せたくなかった
知られたくなかった
それを悔やみきれないほど悔いていた・・

老骨に鞭打って
娘を思う気持ちから
人に頭を下げろと言われても
決して下げることのない人が
勝也の家まで
詫びを入れ、頭を下げてまで迎えに来てくれた
あの出来事が、義父の全てを物語っていた
あの出来事がなかったら
何の接点も、気持ちの移入もなかった
あのことが勝也と昇龍さんとを、確かなものに結びつけていた
ほんとに短い、一年半だけの、この世の縁だった
が、今では永遠の縁ほどに深く太いものになっている・・

念を押され、誰にも言ってないが
生前、義父が義母を追い出したとき
代々に伝わるという小刀を
莢を作り変え
真新しく磨き上げられた
桐の箱に入った短刀を手渡されていた
持っていてくれと・・
自身の気持ちを戒め、鎮めるためだったのか
用がないからだけだったのか
受け継いで欲しかったのか
何を伝えたかったのだろう
謎のままになってしまった
何を意味していたのだろう・・

四十九日まで
坊さんが来て七日毎のお勤めが行われ
義母は、毎日仏壇に向かって読経をあげつづけた
勝也と弥生も
夜のお勤めには、合席して30分ほどの簡略化した読経を唱えた
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・・勝也の父も、若いころ一時名古屋のうどん屋に勤めていたらしい
そこの箱入り娘と一緒になるはずだった
戦争という悪戯が、全てを壊した
実家に戻って、母と知り合った
母は隣町の、多三郎という役者の娘で長女になる
9才違いの妹と二人姉妹で養子娘だ
川原に生えるヨシズを編み、よしず屋を営んでいた
ある人と恋をし、身ごもった
結婚もせずに子供を産んだ
男の子が生まれた
妹に預けて家を出た
子供は、妹の子として育てられた
1932年( 昭和 7年)父と母は結婚をし結ばれた
時代は
5・15事件が起きチャップリンが来日
海軍将校らが犬養首相を射殺し政党内閣に終止符をうった
上海事件が起き満州国を建国し
第10回オリンピックが
ロサンゼルスで38ヵ国1,408選手を集め開会され
日本は陸上で3段とび1、3位、馬術、大障害で優勝
男子競泳6種目中5種目優勝、100メートル背泳で金・銀・銅を独占
第一回日本ダービーが(馬券5円、10円、20円)始めて開催され
日雇い労働者の賃金が1円30銭
タバコのゴールデンバットが7銭、新聞代が月90銭、はがき1銭5厘
そんな時代背景で
そのとき、父が33才 母が24才だった・・
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・・考えてみれば
勝也の父とほぼ同じの、明治30年代前半の生まれだ
年齢が違っても せいぜい 1~2才だ
一瞬、変な想像が頭を駆け巡った
もしかして
親父同士は、知り合いだったのだろうか
顔見知りだったのだろうか
もう遅い
親にも 幼いころ 
若いころと 人生があったはず

何も 知らない
何も わからない
何を考え 求めていたのだろう
聞いていない
聞かされてない
何一つとして 知り合えていない
先人の知恵と知識には素晴らしいものがある
生身の体験者から教えられることは、かけがえのない貴重な財産だ
いっぱい 教えて欲しいことがあった
これからの道を 導いて 欲しかった
勝也は 父が大好きだった
どちらの 父も・・
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・・いまだに人が亡くなっても
泣いたことがない
涙を流したことがない
どんなひとにでも・・
血も涙もないわけではない
情にもろいほうだ
強いわけでもない
決して、やせ我慢や見栄を張っているわけでもない
ものごころが付いたころから
あまりに
沢山の人の死を、自分の目で見すぎていた
涙腺の神経が 麻痺したのだろうか
悲惨な事故でなくなったひと
・可愛がっていてくれた酒屋のおじさんが、
 オートバイで配達に出ていて
 踏み切りで電車に跳ねられ
 バラバラになった姿を
 目の当たりに見た
 棺に納められた遺体は、医者のテクニックにより普通の顔をしていた
思わぬ天災でなくなったひと
・1959年(昭和34年)9月26日の伊勢湾台風(15号)で
 家ごと波に呑まれ、 
 数週間、死体の山が海に沈み
 その後、浮きあがって一面を死臭で漂わせていた
病気でなくなったひと
自から命を絶ったひと
老いてなくなったひと

優しかったひと
可愛がってくれたひと
助けてくれたひと
世話になったひと
いろんなことを教えてくれたひと
仲間だったひと
いろんなひとが 逝った

ひとは誰でも 老いてゆく
老いの先には 避けられない 死が待っている
生きとし 生けるもの
わけ隔たりなく 容赦なく 平等に訪れる
当たり前のことだ
不思議なことではない
欲張ってみても 仕方がない

それぞれに 与えられただけの 寿命がある
与えられた分だけしか 寿命はない
寿命の長さは 誰にもわからない
ひとの生きた証は 時間の長さではない

生まれながらに 悪い奴など 一人もいない
みんな夢を追い 幸せを願う
齷齪しながら ぼっている
知恵を活かして 努力する
どこかで 歯車が狂う
天井知らずの 欲という悪魔が ひとを 捻じ曲げる
欲を持たないひとは 人ではない
いいひとと 悪いひととが 一人のひとに同居する

ひとは みんな いいひとだ

縁あって知り合えた人たちに 
無限の愛と
無償の愛を
いっぱい与えてもらい
悲しくないわけがない
が、涙はでない
泣くこともない
寂しいけど
悔しいけど
悲しいけど
順番に訪れてくること
どこかでこころが 醒めている
どこかで自分も 覚悟している
いつも
どんなときでも
いつしか
幼いころから身に付いてしまった 嫌な性
読経もいつしか 憶えてる
限りあるもの
ひとの死を 受け入れている
はじめて泣くのは 誰だろう
はじめて涙するのは 誰だろう

好きな人
いいひと ばかりが
目の前から 消えてゆく
良き思い出だけを 残して・・

みんな
それぞれの
色々な 人生を 歩んでる

春の盛りには 勤め先の工場も 近くへと変わる

春が終わるころには 待望の 子供も産まれる

 幸せが

いっぱい  いっぱい

手の とどきそうな

そこまで 来ている

世の中は 罪 で  因 果 だ ・ ・ ・


* **>※『あの時・あの頃』Part 7、《辿れへぬ足跡》(1) * E N D *

Continued on the following page. ・・・

  by raymirainya | 2006-11-27 20:36 | あの時あの頃7-1

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